「山川草木悉皆成仏(さんせんそうもくしっかいじょうぶつ)」という言葉の意味を知りたい方へ。
禅寺に行ったことがある人は、「山川草木悉皆成仏」という言葉を聞いたことがあるかもしれません。ですが、「山川草木がことごとく成仏するというのはどういう意味か、詳しく知らない」という人も多いのではないでしょうか。
本記事では、「山川草木悉皆成仏」という言葉の意味について、分かりやすく解説します。
①「山川草木悉皆成仏」とは「全てのものは成仏できる」
「山川草木悉皆成仏」という言葉の意味について、解説していきましょう。
- 「山川草木」とは読んで字のごとく、自然に存在する山や川、草木のことを表しています。
- 「悉」は「ことごとく」あるいは「全て」という意味です。
ですので、「山川草木悉皆成仏」とは、「自然に存在するものは全て、成仏することができる」という意味になります。人間ももちろん自然のものに含まれますので、成仏できます。
②仏性は万物に宿っている
中国大陸から日本に伝わった北伝仏教(大乗仏教)には、「一切衆生悉有仏性(いっさいしゅじょうしつゆうぶっしょう)」という考え方があります。この言葉の意味を見ていきましょう。
- 「一切衆生」とは、この世にいる全ての人のこと。
- 「悉」は、「山川草木悉皆成仏」に出てきた「悉」と同じ意味で、「ことごとく、全てが」という意味です。
- 「仏性」というのは、「清らかな仏の性質、神聖さ」という意味。
なので、「一切衆生悉有仏性」は、「全ての人は、神聖な仏の性質を持っている」という意味になります。
③無智が仏性を覆い隠してしまう
「全ての人に神聖さが宿ってるなんて嘘だ。この世には、救いようのない悪人や犯罪者がたくさんいるじゃないか」と思う人も多いかもしれません。
充分な学識や経済力を持っていたら…
ですが禅や仏教では、生まれつきの悪人がいるわけではなく、悪事を働くのはその人の「無智」、つまり智慧の足りなさが原因であると考えます。盗みを働いたり人を殺したりする人はいますが、もしその人が充分な学識や経済力を持っていたら、果たしてそのような犯罪行為に手を染めたでしょうか。
仏教では、無智によってその人の仏性(清らかな性質)が曇ってしまった結果、罪を犯してしまうと考えるのです。
④「山川草木悉皆成仏」は日本独自の考え
「一切衆生悉有仏性」という考え方は中国にもありますが、「山川草木悉皆成仏」という考え方は、日本独自のものです。中国人の場合、人間とそうでないもの(動物や植物)の間に厳密な線を引きます。知性を持つ人間は成仏できるけれど、動物や植物が仏になれるとは考えないのです。
「山川草木悉皆成仏」という考えは、ペットを家族の一員だと考えたり、草木や石にも神を見出す日本独自の考え方といえるでしょう。
⑤目に映るもの全てが神仏の説法である
「山川草木悉皆成仏」という考え方には、もう一つ別の解釈を加えることができます。
つまり、私たちの目に映る自然の風景、そして私たちが今までの人生で経験してきた出来事すべてが神仏の表れであり、私たちに何かを教えてくれるという考え方です。
目に見える物質界の出来事を見て、神仏の存在を認識する
神や仏は、存在していても、その姿をじかに目にすることはできません。光は存在していますが、光そのものを見ることができず、物に落ちる影によってしか光の存在を認識できないのと同じです。私たちは、目に見える物質界の出来事を見て、神仏の存在を認識するのです。
⑥物質世界は神仏の世界の影
光のような神仏の世界があり、私たちが暮らしている物質世界は神仏の世界の影であるという考え方は、西洋にもあります。「イデア」という考え方です。
イデア
人間は、この世に生まれる前はイデア界(神仏の世界)を認識していたのですが、物質界に生まれる時には記憶を全て消して生まれてくるため、物質世界ではイデアの世界を認識できなくなっているのです。
⑦哲学書には今を生きるヒントが記されている
では、物質世界にいる私たちが、神仏の世界を認識できるようになるためには、どうすればいいのでしょうか?その答えは、様々な哲学書や宗教書、歴史書などを開いてみると、見つかるでしょう。
人類は有史以来、あらゆることに悩んできました。神の世界は存在するのか、人が精神性を高める為にはどうすればいいのか。古今東西の哲学書には、天才や偉人と呼ばれる人たちが一生をかけて見つけ出した発見が記されています。その発見は、現代を生きる私たちのよき道標となってくれるでしょう。
⑧自分の中の仏性を見出すのが人生の目的
「どんな人にも、清らかな仏の性質がある」というのが禅や仏教の考え方だと書いてきました。これを読んでいるあなたは、もしかしたら、「私には清らかな性質なんてない!ズルやごまかしもするし、人に迷惑をかけたり、人の悪口を言ったこともある」というかもしれません。
自分の仏性を信じる
ですが、人間はおろか山や川、草木にすら仏性はあるのです。その仏性が見えなくなっているのは、あくまでも無智のせい。人生で多くのことを学び、智慧を身に着けることで、少しずつ本来の清らかさが表れてきます。自分の仏性を信じて、成長することを諦めないようにしましょう。
最後に
ここまでの長文をお読み頂き、有難うございます。
「山川草木悉皆成仏」という考え方を、少しでも理解する手助けになれば、幸いです。仏教というと、「この世は苦しみに満ちている」「この世は無常だ」という虚無的なイメージがあるかもしれませんが、「山川草木悉皆成仏」のように、ポジティブな考え方もあるのです。どんな人にでも仏の清らかさは宿っていると考えると、前向きになれますよね。
禅宗の思想「山川草木悉皆成仏」の要点は…
- ①「山川草木悉皆成仏」とは「全てのものは成仏できる」
- ②仏性は万物に宿っている
- ③無智が仏性を覆い隠してしまう
- ④「山川草木悉皆成仏」は日本独自の考え
- ⑤目に映るもの全てが神仏の説法である
- ⑥物質世界は神仏の世界の影
- ⑦哲学書には今を生きるヒントが記されている
- ⑧自分の中の仏性を見出すのが人生の目的
ということでした。
以上、最後までご覧頂き、有難うございました。