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仏教における「畜生道」とは何か?分かりやすく解説します

須弥山の概念図

須弥山の概念図

六道のある須弥山の世界には、4つの大陸があり、それらを大海がとりまいています。「畜生道」がある世界は、これらの4つ大陸と大海にあります。大陸には人間が住んでいます。動物や昆虫、そして魚や鳥たちの世界の「畜生道」は、これらの大陸と海と空に広がっているのです。

六道絵

滋賀県にある天台宗の聖衆来迎寺(しょうじゅらいこうじ)には、有名な六道絵があります。これは源信の往生要集(おうじょうようしゅう)を絵画化したものです。その中に「畜生道」を描いたものがあります。 

「畜生道」の苦しみ

「畜生道」を描いた絵画は、生物の様々な苦しみが描かれています。

大海では、龍が住み三熱の苦(熱風熱砂、悪風、子の誘拐)に悶え苦しんでいます。その他の人道の世界では、生物が、地上の世界で使役や殺生、捕食など様々な苦しみを受けています。

例えば、畑では農耕の鋤引きや荷物の運搬に使役される痩せた牛馬などが苦しんでいます。山の中では猟師の狩りの標的となる猪や鹿などが殺されています。 

「畜生道」は弱肉強食の世界

この「畜生道」は、弱肉強食の世界です。獰猛な動物は、弱い動物を捕食し、更に強く獰猛な動物が捕食していくと言う食物連鎖の世界でもあります。最後には人間が、生き残った動物を殺しているのです。

まさに人間は食物連鎖の最高位にあるのです。この「畜生道」で動物を殺した人間は、「地獄道」に落ちると言われています。

④どんな行いが畜生道に落ちるのか

「往生要集」が訴えていることは、動物社会の過酷な弱肉強食の世界を表わすことで、人間が犯している罪を反映しています。「畜生道」は、恐怖と不安の世界です。

仏教では、次のような事件を起こした人は、畜生道に堕ちると説きます。

  • ⑴詐欺事件
  • ⑵育児放棄、虐待
  • ⑶強盗、窃盗、恐喝、暴力事件
  • ⑷浮気、不倫 

よく私たちは、人の事をねたんだり恨んだりするときに、「ちくしょう」と言いますが、怒りの言葉は自分に返ってきます。怒りは、血液中の怒りのホルモン(ノルアドレナリン)を増加させ、高血圧や糖尿病の原因にもなるそうです。生きていくことは辛いことですが、「ちくしょう」と言う度に、自分を傷つけ続けることは意味のないことです。

⑤一休さんや親鸞さんの生き方も「畜生道」

あの有名な一休さん。「狂雲集」という書物の中で、一休さんは、自分は牛なのか、牛が自分なのか、どちらにしても牛と変わらないと言っています。

「家畜にも等しい本能むき出しの無分別な行いを私もやってきた。これは前世の僧が牛になったからなのか、前世の牛が僧になったからなのか、その因縁の次第は判らない。生まれてはみたが、どこからきたのか、とんと覚えがない。私には自分の前身がどんな僧なのかそれは知らない」

一休さんは晩年、ひとりの女性と暮らしました。一休さんはその女性を愛し、その性愛のことも「狂雲集」の中に書いています。情事を終えて、

「三度生まれ変わってもまた交わろうと三世の愛を誓う。生身のまま、畜生道に堕ちたのだ。」

と告白しています。

親鸞聖人

もうひとり、親鸞さんも妻帯しています。31歳で肉食妻帯(にくじきさいたい)しました。そして、4男3女をもうけたそうです。

一般的に僧侶は、肉食妻帯を禁止されていますが、公然とその禁を破りました。その真意は、人間は生きるために動物の命を頂いていますが、それは自然の理だということです。本来の人間の生きる道を探求し、すべての人々が幸せになるように教えを説いたのです。

⑥「建礼門院」と畜生道

悲劇のヒロイン「建礼門院」(けんれいもんいん)は、平清盛(たいらのきよもり)の娘です。名前は、徳子です。源平の戦いで、「建礼門院」は生き残ってしまいます。その経緯はご存じの方も多いと思いますが、あらすじをご紹介します。

建礼門院の人生

源平の戦いは、最後の「壇ノ浦の戦い」で平家は敗れました。その時、船の上にいた安徳天皇は、祖母の二位尼(平時子)に抱かれ、海の中に沈んでいきました。続いて建礼門院も飛び込みますが、源氏の侍に熊手で髪の毛をからめとられて引き上げられてしまいました。

時は流れ建礼門院は出家して京都の大原の寂光院に入りました。そこへ後白河法皇が訪ねていきました。その時、建礼門院は「六道語り」と言われる話をしました。

六道語り

「六道語り」とは、平家清盛の娘として生まれてから、天皇の妃となり、安徳天皇の母となり、壇ノ浦までの話を「六道」の世界になぞらえて話をしました。

  1. 「天道」・・・平家に生まれた事。木曽義仲に追われ、都落ちした時には、あまりの変化に「天人五衰の悲しみ」を感じたと言っています。
  2. 「人道」・・・このような変化に、人間の四苦八苦を経験しました。
  3. 「餓鬼道」・・・海上生活が始まり食べ物や飲み水もない餓鬼道を経験。
  4. 「阿修羅道」・・・源平の戦いの中にあって怖い思いをしたこと。
  5. 「地獄道」・・・海中に沈む人々の嘆きは叫喚・大叫喚地獄でした。
  6. 「畜生道」・・・平家物語では、「六道語り」の最後に「畜生道」のことが書かれていますが、建礼門院の見た夢の話になっています。その夢とは、建礼門院が、武士に捕らえられて都に戻る途中の明石浦と言う場所で、見た夢でした。

その夢の光景は、安徳天皇と平家一門が昔住んでいた屋敷よりも立派な御殿に顔をそろえていました。建礼門院が、「ここはどこですか?」と聞くと、「竜宮城です」という答えでした。「ここには苦しみはないですか?」と聞くと、「龍畜経の中に書いてあります。よくよく弔ってください」という返事でした。

これだけでは、なぜ「畜生道」を見たと言えるのか、はっきりとしません。これには、3つの俗説があります。

建礼門院にまつわる3つの俗説

  • ⑴近親相姦説・・・兄の平宗盛や知盛と特別な関係にあったという噂話。(平家物語異本の延慶本、源平盛衰記)
  • ⑵後白河法皇との不倫関係という説・・・夫の高倉上皇が臨終の際に、平清盛が考えたことですが、後白河法皇の後宮に送り込もうという話がありました。清盛の妻もこれに同意していると言う事実があったのです。
  • ⑶源氏の兵たちに性的暴行を受けたという説・・・海から引き揚げられた後、勝利に酔った源氏の兵士たちが、建礼門院に乱暴を働いたという説。(現実的な戦争の後の兵士による暴行という推論) 

平家物語の作者は、建礼門院の悲劇に惨めな「畜生道」を書くことはできず、竜宮城の夢の話に書き換えたのかもしれません。

⑦畜生道に堕とされた「鳩摩羅什」(くまらじゅう)

「鳩摩羅什」(くまらじゅう 334~413年)は、亀茲国(きじこく)の生まれです。西域と呼ばれる地域です。現在の新疆ウイグル自治区のあたりです。

鳩摩羅什の生い立ち

彼の父はインドの名門貴族の出身です。亀茲国(きじこく)の王女と結婚し鳩摩羅什が生まれました。7歳の時に母と共に出家しました。幼いころから聡明で12歳で梵語の「転法輪経」を講じることができました。360年代に仏教の中心地であるインドのカシミールに遊学しました。そこで原始経典や阿毘達磨仏教を学びました。

呂光の捕虜となった鳩摩羅什

その後、亀茲国(きじこく)を攻略した前秦の呂光の捕虜となりました。(384年)捕虜となった鳩摩羅什は、涼州(りょうしゅう)に連れていかれました。涼州は現在の甘粛省です。中国の西北部にあり、西域に通じるシルクロードの分岐点には有名な敦煌(とんこう)があります。そのまま17年間、捕らわれの身となりました。

鳩摩羅什の才能にほれ込んだ呂光

呂光は、勇猛な武将ですが、あまり教養はありませんでした。鳩摩羅什の豊富な知識は、呂光にとっては、大変貴重な存在でした。しばしば政治についての相談を受け、参謀的な役割を持たされました。鳩摩羅什は、参謀の傍ら仏教の研究にも没頭していました。しかし、呂光は鳩摩羅什の才能にほれ込んで自分のものにしたいと思いました。

呂光によって畜生道に堕とされた鳩摩羅什

なんと呂光は娘の王女と無理やり結婚させてしまいました。その方法は、卑劣極まるもので、酒を飲ました上に、王女と二人ひとつの部屋に閉じ込めたのです。鳩摩羅什は、本能の向くまま、獣と化して王女を抱いてしまったのでした。僧侶にとって女犯は、とても重たい罪とされています。無理やり破戒を強いられたとしても、鳩摩羅什は、自分が獣のような「畜生道」に堕ちたことをさぞ悩んだことでしょう。 仏教の世界では、破戒僧は「畜生道」に生まれ変わり牛になると言われています。

仏教に熱心だった鳩摩羅什

その時、彼を支えたのは、仏教に対する熱心な研究心でした。いつかは長安に行き仏教を広めたいと思っていました。18年間の幽閉生活を経て、その後、新しい国王に招かれて長安に行きました。鳩摩羅什が漢訳した経経典は現在でも生きています。鳩摩羅什は、晩年になって自らの経典の翻訳について「臭泥の中に蓮華を生じるが如し」と語りました。おそらく女犯の罪の意識が強く残っていためと言われています。

鳩摩羅什が漢訳した経典

代表的な漢訳された経典として、

禅経、阿弥陀経、新賢劫経、大智度論、新大品経、百論、十誦律、仏蔵経、菩薩蔵経、維摩経、妙法蓮華経、華子経、自在王経、新小品経、中論、十二門論などがあります。

⑧各地の動物慰霊祭

私たちは、生きていくために動物の肉を食べたりします。小さい頃は、動物園に行ってめずらしい動物を見たりします。大学では、実験のために小さな動物を使います。私たちは日常的にあまりこれらの動物に罪の意識は感じませんが、膨大な量の動物が殺されています。貴重な命に感謝し敬意を表意して各地で慰霊祭が行われています。

⑴動物園

上野動物園や多摩動物園では、年に1度、1年間に死亡した動物たちのために動物慰霊祭を行っています。献花もできるそうなので、動物の好きな方は是非行ってみてください。その他、全国の主な動物園でも慰霊祭が行われています。

⑵食肉関係

私たちは、たんぱく補給源として動物を食べます。広島市の食肉市場では、年に2回、慰霊祭を行っています。その他にも、全国で食肉関係の事業をしている組合や会社でも慰霊祭を行っています。

⑶大学関係

全国の大学で年間、実験に使用するマウスやラットのために慰霊祭を行っています。私たちの健康のために使用された動物たちの冥福を祈りたいと思います。

⑷鯨やイルカの慰霊祭

鯨やイルカのための慰霊祭も行っていますが、鯨やイルカとなると、世界的に問題視されています。鯨やイルカは、絶滅危惧種であり、より高等な動物だという観点から食用にするのはいけないと言う声が強まっています。

私たちは、生きていくためには、動物の命を頂いて生きているという自覚を持つことが大切です。

最近はペット・ブームから、ペットの葬儀やお墓なども増えてきました。それを専業にする業者も増えてきました。それは、宗教活動ではなくビジネスとして行っています。なかには悪徳業者もあるので要注意です。

⑨絶滅危機のサイ

人間の欲望にはきりがないと言われています。人間は豊かになればなるほど、欲望が大きくなり、満足することはありません。いろいろな財を求めて、珍獣が殺されたりします。動物を殺した者は、地獄に落ち苦しみを受けた後、さらに「畜生道」に生まれ変わるとされています

アフリカのサイの密猟が禁止されているにもかかわらず、密猟者が後を絶たないそうです。今や絶滅寸前です。サイの角が高値で売れるからです。サイの角がなぜ高値で売れるかと言うと美容に効果があるからです。サイの角は最終的に中国に運ばれているのです。

中国経済の成長

中国は近年、経済成長が著しく富裕層が増えました。その昔は、中国は一部の政治家や軍閥が富を占めていましたが、革命後、人々の生活は豊かになってきました。日本にも買い物に来て、「爆買い」と言われるほど、一度に何百万も買い物していきます。ぜいたくになったことは悪いことではありませんが、そのために動物が絶滅するのは困ったことです。

中国へのサイの角の密輸

しかし中国では、1993年からサイの角の取引は禁止されているはずなのですが、どのようにして中国に運ばれるのでしょう。サイの角は、アフリカからベトナムに運ばれているようです。ベトナムの山岳地帯を通り、広西チワン族自治区や雲南省へ違法に中国に運ばれているようです。雲南省では、15歳前後の子どもを使い河口の港から商品を運んでいると言われています。こうした子どもたちは、少額の罰金ですんでいます。

動物保護の問題

そのほかにも象牙や虎の体の一部など野生動物から作られた製品があります。ある特別の人間たちの欲望のために貴重な動物たちが犠牲になることは悲しいことです。その人たちが、「畜生道」のことを聞いて反省してくれれば良いのですが、おそらく無関心でしょう。その人たちにとっては、動物が絶滅しても問題にはしません。生きているうちは、「お金」が、ほとんどの問題を解決してくれるからです。

私たちは、そういう人たちに直接的に話をすることもできませんが、あきらめずに動物たちを守る意識を強く持って、何らかの形で動物を助けていくことを続けていくことが大切です。

⑩インドで「牛」を食べている地域

インドほど戒律の厳しい国はありません。いまだにカースト制度があり、人々はそれを社会の規範として守っています。食文化においても宗教的な制約が厳しく、ほとんどが肉食を禁止しています。動物を食べた者は、「殺生」と同じという考えから、地獄に落ちた後、「畜生道」に転生すると言われています

インドでは、ヒンドゥー教が神聖化している牛の肉を食べることができませんが、例外的に食べている地域があります。アラビア海を臨む南インド西岸にある「ケララ州」という地域では、牛肉を食べています。 

牛を食べているからと言って、「畜生道」に堕ちている地域かと言うとそうではありません。宗教的には、ヒンドゥー教、イスラム教、キリスト教が混然一体となっていますが、トラブルはないようです。

牛肉を食べる「ケララ州」

歴史的にも古くからこの地域は、ヨーロッパとの交易がありました。現在は、インド最大のIT特区であり宇宙開発も行っています。識字率は100%で、公衆衛生も良く、医療水準も高く、平均寿命も最も長い地域です。他のインドの地域とは格段の違いがあります。観光地としても有名でこの世の楽園と言われています。

ところが、2018年8月にこの地方をモンスーンが襲い、440人以上が死亡、100万人以上が避難をしました。インドのモディ首相は、被災地を視察して緊急支援として50億ルピー(約80億円)を拠出することを決めました。バチカンの教皇フランシスコは、お見舞いの言葉を述べられました。日本政府も救援の用意があると発表しました。せっかく築かれたインドの楽園の一日も早い復興を祈ります。

 

最後に

ここまでの長文をお読み頂き、有難うございます。
「畜生道」は、死後の世界のことですが、「往生要集」にも書かれているように、動物たちの弱肉強食の連鎖の頂点に立つ人間の悪行がテーマとなっています。仏教の本来の趣旨は、死後どうするかということではなくて、生きている自分たちが今どうするかということです。

「仏教における畜生道とは何か?分かりやすく解説します」の要点は

  • ①「畜生道」とは、動物に生まれ変わる世界です
  • ②「畜生道」では本能のままに生きる
  • ③「畜生道」のある場所
  • ④どんな行いが畜生道に落ちるのか
  • ⑤一休さんや親鸞さんの生き方
  • ⑥「建礼門院」と畜生道
  • ⑦「鳩摩羅什」(くまらじゅう)の功績
  • ⑧各地の動物慰霊祭
  • ⑨絶滅危機のサイ
  • ⑩インドで「牛」を食べている地域

ということでした。
以上、最後までご覧頂き、有難うございました。