「転識得智(てんじきとくち)」という考え方について、詳しく知りたい方へ。
仏教には宗派ごとに様々な考え方がありますが、唯識派で使われている「転識得智」もそのひとつです。「転識得智」とは、一体どんな考え方なのでしょうか?
本記事では、仏教用語「転識得智」についてご紹介します。
「転識得智」は唯識派の考え方
「転識得智」とは、仏教の宗派のひとつ「唯識派(ゆいしきは)」で使われている考え方です。仏教では、悟りを得てこの世から解脱(げだつ)することを最終目的にしていますが、どういうプロセスを経て悟りに近付くのかは、宗派によってそれぞれ違いがあります。「転識得智」も悟りに至るプロセスのひとつです。
無智がなくなると現実がありのままに見えてくる
現代の心理学やスピリチュアルなどでは、人の心は「顕在意識」「潜在意識」の2種類に分けられると考えていますが、唯識派の考え方では、心を以下の4層構造でとらえています。
- 前五識(ぜんごしき)
- 識(しき)
- 末那識(まなしき)
- 阿頼耶識(あらやしき)
普通の人は、この4層構造の心が無智によって曇っているため、現実をありのままに認識できない状態にあります。ですが悟りを得ると、無智による曇りが晴れ、現実をありのままに認識できる智慧を得られるのです。こういった考え方を「転識得智」といいます。
心の4層構造①「前五識」は五感のこと
前五識とは、
- 眼(げん)
- 耳(に)
- 鼻(び)
- 舌(ぜつ)
- 身(しん)
の5つを合わせた呼び名です。文字を見ると何となく理解できると思いますが、眼は視覚、耳は聴覚、鼻は嗅覚、舌は味覚、身は触覚です。いわゆる「五感」を、仏教では前五識と呼びます。
心の4層構造②「識」とは顕在意識のこと
「識」とは、いわゆる顕在意識のことです。自分が認識している「私の気持ち」や「私が思っていること」などが、「識」に当たります。ここまでは、自分自身でも認識できます。
心の4層構造③「末那識」とは自分と自分以外のものを区別する意識
「末那識」と「阿頼耶識」の2つは潜在意識ですので、普通の人は認識できません。西洋の心理学や精神分析などでは、この2つをまとめて「潜在意識」と呼んでいます。
潜在意識の1つ「末那識」は、自分と自分以外のものを無意識のうちに隔ててしまう考え方というと、分かりやすいでしょう。人は生きていく上で、自分にとって安全なものと害になるものを見分ける必要があります。末那識は、自分の害になるものを遠ざけ、自分を守ってくれるものでもあるのです。
心の4層構造④「阿頼耶識」には過去・現在・未来の出来事が含まれている
皆さん方が「潜在意識」という言葉を聞いてイメージするものに一番近いのが、「阿頼耶識」になります。この「阿頼耶識」には、今までの人生で見たこと、聞いたこと、経験したこと、全部が含まれています。輪廻転生する前の、いわゆる前世の記憶も含まれているといわれています。
阿頼耶識には時間の概念がない
また、阿頼耶識には時間の概念がないので、今まで経験してきたことだけではなく、これから経験する出来事のデータも含まれています。不吉なことが起きる時に虫の知らせなどがあるのは、この阿頼耶識の中にある未来のデータを直感で察知しているからなのです。
阿頼耶識には自他の区別が存在しない
さらに、阿頼耶識には自他の区別が存在しないため、自分だけではなく他人の阿頼耶識とも繋がっていると言われています。ユングはこの阿頼耶識のことを集合的無意識と呼んでいました。
転識得智が起きると智慧を得ることができる
では、実際に悟りを得て「転識得智」が起きると、どのような変化があるのでしょうか。無智による曇りがなくなると、物事がありのままに見えるようになり、その分、智慧が表れてくるようになるといわれています。
転識得智の後①「前五識」は「成所作智(じょうしょさち)」に変化する
悟りを得た後は、「前五識」いわゆる五感は「成所作智」へと変化します。成所作智というのは、世の中の人を悟りに導くための正しい行動や、物事を実行するタイミングを的確に読み解く智慧のこと。
成所作智が目覚めた人は、自分が行うべきことや実行するタイミングを、正確に見極めることができるのです。
転識得智の後②「識」は「妙観察智(みょうかんさつち)」に変化する
「転識得智」の後、「識」つまり顕在意識は「妙観察智」へと変化します。「妙観察智」とは、物事をありのままに見る智慧のこと。世の中の多くの人は、偏見や常識、「普通」とされる考え方にとらわれてしまい、物事をありのままに見ることができなくなってしまっています。
妙観察智が目覚めてくると、周りの人の言葉に流されることなく、物事を正しく見極めることができるようになるのです。
転識得智の後③「末那識」は「平等性智(びょうどうしょうち)」に変化する
転識得智の後、「末那識」は「平等性智」へと変化します。「平等性智」とは、自分だけを特別扱いせず、自他の区別なしに現実を見ること。自分を過大視、あるいは過小評価してしまうと、他人とうまく付き合うことができません。「平等性智」を得ることで、他人との間の壁が取り払われます。
転識得智の後④「阿頼耶識」は「大円鏡智(だいえんきょうち)」に変化する
転識得智の後、「阿頼耶識」は「大円鏡智」へと変化します。大円鏡智とは、磨き抜かれた鏡のような、澄み切った心の状態を指すと言われています。自分でも認識できない潜在意識の汚れが全て取り除かれた状態であり、多くの人はこの境地を目指して修行を続けます。
最後に
ここまでの長文をお読み頂き、有難うございます。
「転識得智」という言葉について、少しでも理解を深めることができたでしょうか?無智によって曇ってしまった心を磨くことができれば、大いなる智慧を得ることができるという「転識得智」の考え方は、現代に生きる私たちにとっても非常に参考になる考え方ではないでしょうか。
仏教用語「転識得智」の要点は…
- 「転識得智」は唯識派の考え方
- 無智がなくなると現実がありのままに見えてくる
- 心の4層構造
①「前五識」は五感のこと
②「識」とは顕在意識のこと
③「末那識」とは自分と自分以外のものを区別する意識
④「阿頼耶識」には過去・現在・未来の出来事が含まれている - 転識得智が起きると智慧を得ることができる
- 転識得智の後
①「前五識」は「成所作智(じょうしょさち)」に変化する
②「識」は「妙観察智(みょうかんさつち)」に変化す
③「末那識」は「平等性智(びょうどうしょうち)」に変化する
④「阿頼耶識」は「大円鏡智(だいえんきょうち)」に変化する
ということでした。
以上、最後までご覧頂き、有難うございました。